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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)766号 判決 1969年9月18日

原告

園部雄吉

被告

大蔵大臣

福田赴夫

指定代理人

検事

鰍沢健三

外四名

主文

被告が昭和四二年一〇月七日付で原告に対してなした懲戒処分の取消しを求める、原告の訴えを却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告は負担とする。

事実

(当事者双方の申立て)

一、原告

(一)  被告が昭和四二年一〇月七日付で原告に対してなした、昭和四二年一〇月一一日から昭和四三年七月四日までの間の公認会計士業務の停止を命ずる旨の懲戒処分は、これを取り消す。

(二)  被告が昭和四三年五月二〇日付でなした、前項の処分に関する原告の異議申立てを棄却する旨の決定は、これを取り消す。

(三)  被告が昭和四三年六月二六日付でなした、前項の異議申立てにつき被告が応答しなかつた不作為に対する原告の異議申立てを却下する旨の決定は、これを取り消す。

(四)  訴訟費用は被告の負担とする。との判決。

二、被告

本案前の申立て

(一)  本件各訴えは、いずれもこれを却下する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。との判決。

本案の申立て

(一)  原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。との判決。

(当事者双方の主張)

第一  原告の請求原因

一、(一) 原告は公認会計士であるが、被告は、昭和四二年一〇月七日付、同月八日到達の書面をもつて原告に対し、公認会計士法三〇条二項の規定に基づき、昭和四二年一〇月一一日から昭和四三年七月四日までの間公認会計士業務の停止を命ずる旨の懲戒処分をなした。そこで原告は、昭和四二年一二月二日被告に対し、右懲戒処分について異議申立て(以下第一の異議申立てという。)を行ない、更に、昭和四三年五月二一日被告に対し、右異議申立てについて五カ月間も何らの応答がないことを理由に、不作為につき異議申立て(以下第二の異議申立てという。)をなしたところ、被告は原告に対し、同月二〇日付、同月二二日到達の書面をもつて、第一の異議申立てを棄却する旨の決定(以下第一の決定という。)をなし、また同年六月二六日付、同月二八日到達の書面をもつて、第二の異議申立てを却下する旨の決定(以下第二の決定という。)をなした。

(二) 被告が原告に対してなした懲戒処分の理由は、日亜鋼業株式会社(以下訴外会社という。)が証券取引法の規定に基づいて提出した、同社の第一〇事業年度(昭和三七年三月期)より第一四事業年度(昭和四一年三月期)までの期間に係る有価証券報告書の財務書類には、売掛金、製品、仮払金、未収入金、建設仮勘定等の資産勘定の過大計上等重大な虚偽の記載が行なわれていたにもかかわらず、原告は相当の注意を怠り、重大な虚偽がないものとして監査証明を行なつたもので、これは公認会計士法三〇条二項に該当すると認められる、というのである。

二、しかしながら、被告がなした懲戒処分、第一および第二の各決定には、それぞれつぎに指摘するような違法事由がある。

(一) 懲戒処分について。

(1) 被告は、懲戒処分通知書において、懲戒処分の理由として、単に、訴外会社の第一〇事業年度より第一四事業年度までの期間に係る有価証券報告書の財務書類に、売掛金、製品、仮払金、未収入金、建設仮勘定等の資産勘定の過大計上等重大な虚偽の記載が行なわれていたこと、および、原告がこれに対し相当の注意を怠つた結果、重大な虚偽がないものとして審査証明を行なつたことを掲記するにとどまり、売掛金等の五科目について、いかなる時期に、いかなる相手、いかなる物件について、いかなる状況の下に、いかほどの金額が過大計上されたかというその内容については、全く明示していないし、また各過大計上について原告がいかなる時期にどのような注意義務を懈怠したかについても、全く明らかにしておらず、更に、懲戒事由を認定した証拠についてもこれを全く明示していないのであつて、被告の懲戒処分はその理由の記載が不備である。

(2) のみならず、訴外会社の右財務書類には、被告が主張するような資産勘定等の過大計上等重大な虚偽の記載がなされていた事実はないし、いわんや過大計上等がなされていたことに対し原告が相当な注意義務を懈怠した事実もなく、またこれらの事実を根拠づける証拠も存在しない。

(二) 第一の決定について

(1) 第一の決定についても、既に二(1)(2)において述べたと同様の違法事由がある。

(2) 被告は、第一の決定の決定書において、訴外会社が粉飾経理を行なつていた事実、および原告が相当の注意を怠つた事実は、調査の結果、相当の証拠に基づいて明らかとなつているし、懲戒処分通知書は処分の理由のみの記載で足り、証拠を明示することは必要でない旨を記載している。しかし被告は右決定書において懲戒処分の理由を具体的に明示すべきであつたにもかかわらず、これをなさずして証拠の明示は必要でない旨を主張しているにすぎないのであつて、右決定はその理由の記載が不備である。

(三) 第二の決定について

原告は、前叙のとおり、昭和四二年一二月八日被告に対し第一の異議申立てをしたのに対し、被告は、五カ月以上も経過した昭和四三年五月二〇日に至つてはじめてこれを棄却する旨の第一の決定をなし、また同月二一日になされた第二の異議申立てに対しては、同年六月二六日に至つてこれを却下する旨の第二の決定をした。被告は右二つの決定をいずれも正当な理由なくして長期にわたり引き延ばしたのであるから、第二の決定は違法である。

三、以上のとおり、被告がなした懲戒処分、第一および第二の各決定はいずれも違法であるので、原告はここにその取消しを求める。

第二  被告の本案前の主張

被告が原告に対してなした懲戒処分は、昭和四二年一〇月一一日より昭和四三年七月四日までの業務停止処分をその内容としているので、右懲戒処分は既にその執行を完了しており、現在においてはもはやその取消しを求める利益がない。なお公認会計士法上、懲戒処分を受けたことを理由として将来の懲戒処分が加重される等の不利益を蒙るものではないから、この点においても、右懲戒処分の取消しを求める法律上の利益がない。

原告は懲戒処分を受けたことにより、終世にわたつて、社会上重大かつ致命的な不名誉その他の実損を蒙るに至つたから、右懲戒処分の取消しを求める利益がある旨主張するが、このような利益は事実上のものであつて、行政事件訴訟法九条にいう法律上の利益には該当しない。

したがつて、原告の各訴えは、不適法であるから却下すべきである。

第三  被告の本案に対する答弁および主張

一、原告の請求原因一の事実はいずれもこれを認めるが、同二の主張はすべて争う。

二、被告が原告に対して懲戒処分をなすに至つた経緯はつぎのとおりである。

原告は、昭和二四年一二月に特別公認会計士試験に合格し、昭和二五年二月に公認会計士の登録をし、訴外会社について証券取引法一九三条の二に基づく監査証明を行なつてきたものであるが、同社が証券取引法の規定に基づいて提出した同社の第一〇事業年度(昭和三七年三月期)より第一四事業年度(昭和四一年三月期)までの期間に係る有価証券報告書の財務書類には、売掛金、製品、仮払金、未収入金、建設仮勘定等の資産勘定の過大計上等重大な虚偽記載が行なわれていたのに、原告は公認会計士としての相当な注意を怠り、右財務書類には重大な虚偽がないものとして鑑査証明を行なつたものであつて、原告の右行為は公認会計士法三〇条二項に該当するので、被告は昭和四二年一〇月七日付で原告に対し同月一一日から翌昭和四三年七月四日までの間公認会計士の業務の停止を命じたのである。

そして被告が右事実を覚知したのは、昭和四二年四月に訴外会社について審査を施行したのに始り、同年六月六日に近畿財務局において原告より監査状況を聴取し、同年七月一三日には大蔵省において原告より監査状況を聴取し、同年七月一三日には大蔵省において原告を審問(公認会計士法三三条一項一号)し、また同月一八、一九の両日にわたつて訴外会社において実施調査(同法三三条一項四号)をした結果、更に同年九月一一日に大蔵省において原告を聴問(同法三二条四項)した結果等を総合して認定したことによるのであつて、公認会計士審査会の意見も九カ月月の業務停止を相当とするというのであつた。

第四  被告の本案前の主張に対する原告の反論

原告は、懲戒処分を受けたことにより、将来終世にわたり、かつ死後においても、社会的に深甚、重大かつ致命的な実損、実害を蒙つた。即ち、懲戒処分を受けたことにより、原告は、職を失ない、無収入となり、病気の治療が不能となるような窮地に陥つたのであり、社会正義を保全していきたいという社会的責任ないし至上の念願を喪失してしまい、家族、親族、子孫、恩師、知友その他全社会人に対して死刑以上の生恥をさらす不名誉な結果となり、天命をも短縮せしめられるという実害を蒙つているのである。

したがつて、原告には被告の各処分の取消しを求める法律上の利益があることが明らかである。

(証拠関係)<省略>

理由

一懲戒処分の取消しを求める訴えについて

まず、本件懲戒処分の取消しを求める訴えの適否について判断することとする。

本件懲戒処分の内容が、昭和四二年一〇月一一日から昭和四三年七月四日までの間の公認会計士業務の停止を命ずるものであること、および、その理由が、訴外会社が証券取引法の規定に基づいて提出した同社の第一〇事業年度(昭和三七年三月期)より第一四事業年度(昭和四一年三月期)までの期間に係る有価証券報告書の財務書類には、売掛金、製品、仮払金、未収入金、建設仮勘定等の資産勘定の過大計上等重大な虚偽が行なわれていたにもかかわらず、原告は相当の注意を怠り、重大な虚偽がないものとして監査証明を行なつたもので、この事実は公認会計士法三〇条二項に該当すると認められるというものであることについては、当事者間に争いがない。したがつて、本件懲戒処分の内容たる業務停止の効果は、その所定の存続期間の経過により、既に、消滅していることが明らかである。しかしながら、取消訴訟の原告適格を規定している行政事件訴訟法九条は、「処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴えは、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。」と規定している外に、括弧内において、右にいう法律上の利益を有する者の中には、「(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)」ものと規定しているから、原告が果して本件懲戒処分の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者に該当するかどうかを検討しなければならない。

ところで、公認会計士法三〇条二項によれば、「公認会計士が、相当の注意を怠り、重大な虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を重大な虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして証明した場合には、大蔵大臣は、戒告又は一年以内の業務の停止の処分をすることができる。」ものと規定され、同法三四条三項によれば、大蔵大臣は同法三〇条の規定により懲戒の処分をしたときは、その旨を公告しなければならないとされており、また公認会計士等登録規則一一条によれば、日本公認会計士協会は公認会計士が公認会計士法二九条一号または二号の懲戒処分を受けたときは、遅滞なくその書類および処分を受けた年月日を公認会計士名簿に登録しなければならないと規定されている。なるほど、大蔵大臣が原告に対する懲戒処分を公告した事実、および日本公認会計士協会が懲戒処分の種類および処分の年月日を公認会計士名簿に登録した事実そのものは、本件懲戒処分の直接の効果がその期間を経過したことにより消滅してしまつた後においても、決して消失するものではない。しかし、右にいう公告および登録は、公認会計士に対する監督官庁である大蔵大臣が公認会計士に対して同法に基づいて懲戒処分をなしたことを一般に周知せしめ、もつて懲戒処分の内容の実現を確保するためになされるものである。それ故、右公告および登録は懲戒処分に附随してなされるものにすぎず、本件懲戒処分がその直接の効果を失つた後は、法律上独立した意味を有するものではない。したがつて、公告および登録の事実そのものが消失しないことをもつて、原告が本件懲戒処分の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有するということはできない。そして公認会計士法およびその附属法令を検討してみても、本件懲戒処分を受けたことによつて将来懲戒処分が加重されるとか、あるいは会認会計士としての資格ないし法的地位に新たな消極的影響を及ぼすとかいうような規定は何ら存在しない。

もつとも、公認会計士は税理士となる資格をも有しているところ(税理士法三条一項)、同法二四条一項七号によれば、税理士としての登録拒否事由の一つとして、「税理士の信用又は品位を害する虞があり、その他税理士の職責に照らし税理士としての適格性を欠く者」は税理士としての登録を受けることができないと規定されている。しかしながら、原告の税理士としての適格性の有無について、他の事情が加われば格別、本件懲戒処分の前示理由を参酌すれば、本件懲戒処分を受けた事実のみをもつて、原告が同法二四条一項七号に該当するとは到底認められないから、右規定が存することを理由として、原告に本件懲戒処分を取り消すことにつき回復すべき法律上の利益があるということはできない。

原告は、本件懲戒処分を受けたことにより、職を失ない、無収入となり、病気の治療が不能となるような窮地に陥り、社会正義を保全していきたいという社会的責任ないし至上の念願を喪失してしまい、家族、親族、子孫、恩師、知友その他全社会人に対して死刑以上の生恥をさらす不名誉な結果となり、寿命をも短縮せしめられるような実害を蒙つている旨主張する。確かに、故に本件懲戒処分が違法ないし不当なものであるとすれば、右処分は原告に対する制裁的な処分であるから、原告の名誉信用等の人格的利益を侵害するものであることが明らかである。しかしながら、このような人格的利益に対する侵害、あるいは原告が主張するようなことは、本件懲戒処分を受けたことから派生する事実上の不利益にすぎず、これをもつて、原告に本件懲戒処分を取り消すことによつて回復せられるべき法律上の利益と認めることはできない。のみならず、懲戒処分の違法を理由とする名誉信用の回復または損害賠償の請求は、民事上の手段によつて救済が十分可能であるばかりか、むしろ民事上の手段による方が適切であるともいえるのであり、この場合には、その原因となつた懲戒処分について取消判決を取得していることは必要でないから、名誉信用の回復または損害賠償の請求をなすために、本件懲戒処分を取り消すことにつき回復すべき法律上の利益があるともいえない。

以上の理由により、本件懲戒処分の取消しを求める原告の訴えは、その利益を欠く不適法なものであるから、却下を免れない。

二第一の決定の取消しを求める請求について

まず、第一の決定の取消しを求める訴えの適否について、判断することとする。

第一の決定の原処分である本件懲戒処分の取消しを求める訴えが、その利益を欠くため不適法であり、却下を免れないことは、前項において説示したとおりである。しかしながら、このような不適法であるという判決が確定しても、それは本件懲戒処分の取消しを裁判所に対して請求することができないというだけのことであつて、右判決は異議申立決定庁に対し、原処分について裁判所と同様の判断をしなければならないという拘束力を持つものではない。したがつて、第一の決定がその固有の瑕疵に基づいて取り消されると、異議決定庁としては独自の判断に基づき、あらためて原処分の違法性のみならず不当性の有無についても再審理を尽した上、決定をなすのであつて、この場合に原処分を取り消す可能性が全くないとはいえばい。そうすると、第一の決定の取消しを求める訴えは、その利益を有することになるから、適法であるといわねばならない。

よつて、本案について判断を進めることとする。

ところで、原告は、その請求原因二(二)(1)において、第一の決定の違法事由として、原処分である本件懲戒処分の違法事由を主張している。しかしながら、行政事件訴訟法一〇条二項によれば、「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した議決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、議決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」旨規定されている。したがつて、原告の右主張は、第一の決定についての違法事由としては主張自体失当であるといわねばならない。

つぎに原告は、第一の決定の理由記載が不備である旨主張するので、この点について検討する。

行政不服審査法四八条によつて準用される同法四一条第一項において、決定の書面に理由を附記すべきことが要求されているのは、決定機関の判断を慎重ならしめるとともに、決定が決定機関の恣意に流れることのないように、その公正を保障するためと解されるから、その理由としては、異議申立人の不服の事由に対応して、その結論に到達した過程を、原処分に附された理由と相侯つて、異議申立人に理解しうる程度に明らかにしなければならないことは当然のことである。しかしながら、<証拠>によれば、第一の決定の決定書には、その理由として、「訴外会社が第一〇事業年度(昭和三七年三月期)から第一四事業年度(昭和四一年三月期)までの各事業年度において粉飾経理を行なつていた事実及び異議申立人が相当の注意を怠つていた事実は、調査の結果、相当の証拠に基づいて明らかとなつており、この異議申立てには理由がない。なお、懲戒処分通知書は、処分の理由のみの記載で足り、証拠を明示することは必要でない。」旨の記載がなされていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右に認定した事実に、本件懲戒処分に附された前示理由、<証拠>および弁論の全趣旨によつて認められる第一の異議申立ての異議理由、ならびに、原告が公認会計士という企業会計について専門的知識を有しているということをも併せて判断すれば、本件における第一の決定の決定書に附記すべき理由としては、右決定書に記載されている程度の理由をもつて足りると解せられる。それ故、第一の決定の理由記載が不備である旨の原告の主張は失当である。

したがつて、第一の決定の取消しを求める原告の請求は、理由がない。

三第二の決定の取消しを求める請求について

まず、第二の決定の取消しを求める訴えの適否について考えてみるに、記録を調査しても、右訴えを不適法であるとするような事実は何も認められないので、右訴えは適法であるといわなければならない。

よつて、本案について判断を進めることとする。

まず原告は、第一の決定は原告が第一の異議申立てをしてから五カ月以上も経過した後になされたもので、第一の決定には、被告が正当な理由なくして長期にわたつて引き延ばしてきたという違法がある旨主張する。しかしながら、原告の右主張は、第一の決定に対する手続上の違法事由とはなりえても、第二の決定の違法事由には、論理的になりえないものである。仮に、原告の右主張を、第二の決定が右のような違法を看過したという点に、固有の違法事由が存するという趣旨に解しても、<証拠>によれば、原告の第二の異議申立ては、原告の第一の異議申立てに対して五カ月以上も経過したにもかかわらず、被告が何らの応答もしなかつたことに関して、昭和四三年五月二一日に被告に対し、不作為についての異議申立てとしてなされたものであるところ、第二の決定は、第一の異議申立てに対しては既に同月二〇日付で第一の決定がなされていることを理由に、第二の異議申立てを不適法であるから却下すべきものとしてなされていることが認められる(右認定に反する証拠はない。)のであつて、第二の決定には、原告が右において主張するような違法事由を認めることができない。

つぎに原告は、第二の決定にも被告が正当な理由なくして長期にわたつて引き延ばしてきたという違法がある旨主張するので、この点について考えてみる。

原告が昭和四三年五月二一日被告に対し第二の異議申立てをしたところ、被告が同年六月二六日付、同月二八日到達の面面をもつてこれを却下する旨の第二の決定をしたことについては、当事者間に争いがない。そうすると、被告は原告の第二の異議申立てに対し、約一カ月後に応答しているのであつて、いかに右事案が単純であるといつても、行政庁の事務処理能力を斟酌すれば、被告が第二の決定を不当に長期にわたつて引き延ばしてきたものとは到底認められない。それ故原告の右主張は失当である。

したがつて、第二の決定の取消しを求める原告の請求もまた理由がない。

四以上の次第で、本件懲戒処分の取消しを求める原告の訴えは、不適法であるから却下し、第一および第二の各決定の取消しを求める原告の請求は、いずれも理由がなく失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。(日野達蔵 喜多村治雄 南三郎)

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